第一部1巻
Part1「麦ちゃんの微熱」
秋田麦は八千代市に父親と二人で暮らす高校生。麦の家に、初めて出会う従姉妹の曜子が、大学の教育実習の間仮住まいをする。ある日麦は、曜子が教習中の小学校で、体育の時間に言うことを聞かない小学生に手を焼いているのに出くわし、小学生たちを整列させ大人しくさせる。曜子に、私より大人みたい、と言われた麦は気をよくする。麦は曜子に想いを募らせるようになるが、結婚してくれないか?と言う麦の言葉に曜子は、おいたするのに「結婚」という言葉を使うものじゃない、とあしらう。ささやかな口づけとともに。
Part2「初恋」
男子校だった麦の高校に女子高生が入学するようになる。親友の民夫はその女子高生たちの写真を麦に売りに来る。一番の美人は小谷英子だったが、麦は一枚も売れていないからという理由で眼鏡をかけた中野やよいの写真を買う。そんな日、英子から手紙が届く。喜び勇む麦だったが、手紙の主は同姓同名の小学生だった。麦の従姉妹が教育実習に来た時の教え子で、麦が曜子をフォローした時に麦を見初めたのだった。初めて英子に会った日、麦は帰ると言う英子を引き止め、ゲームセンターや公園に行き、手をつないで歩いた。別れ際、どうしようもなく愛し合った二人が、どうしようもない理由で別れなければならない、そんな倒錯感に満ちていた。
Part3「潮騒」
麦は親友の民夫と共にポンコツスクーターに相乗りして、海(木更津方面)へナンパに向かう。幾つものトンネルを抜けて海に来た二人は女の子をナンパするが、二人とも失敗ばかりだった。そこで偶然にも海辺の売店でアルバイトをしているやよいと出会う。やよいと一緒にバイトをしているグラマーな浜野良子をじゃんけんで民夫にとられた麦は、海辺でやよいと二人きりになる。やよいは、麦が自分の写真を買ったのを知っていた。麦はやよいを抱きしめようとするが彼女は逃げて行ってしまう。後日「ごめんね」と書かれた絵葉書がやよいから届く。
Part4「さらば童貞」
夕蝉の見えざる翅の脈うちて樹々ふかき快楽のさいぶれ(塚本邦雄)麦は偶然女の子達の「童貞を絵に描いたような人もいる」という話を聞いて、童貞を捨てるべく、昔遊郭があったという歓楽街へ向かう。しかし、勇気のない麦は一件の店にも入ることが出来なかった。そこへ現れた女性は、高校生ならお金ないでしょうから家へ来ないかと誘う。その女性は懐かしい香りがした。その訳は麦の父、秋田記(しるす)の作品が彼女の部屋に並べられているからだった。飲んで父の文学論を語って結局何もせずに一夜を明かし、彼女の家を後にした麦。それを偶然やよいに見られてしまう。その街はやよいの住む街でもあった。
Part5「いつまで秋」
麦はやよいに謝ろうと電話をするが、いつも話したくないからと出てくれなかった。やよいは学校でも麦を避けているようだった。親友の岩崎は「俺たちが仲をとりもってやろうか?」と麦に言う。岩崎の彼女とやよいとは友達でもあったのだ。しかし麦は岩崎の話を断った。秋期球技大会で偶然やよいのテニスの試合の審判をした麦。あっけなく負けたやよいの後を、麦は熱病のように追った。やよいは麦にこれまでのことを謝るが、今ボーイフレンドがいるという。気落ちする麦は、ある日捨て猫を拾って帰る。
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