第一部2巻

Part6「接吻の森」

 麦は公園で「赤いキリン」という置き去りにされている絵本を読む。それは淋しいキリンと淋しい女の子の話だった。麦は絵本の持ち主の小田星子と語り合い、以前拾った猫を「涙」と名付けるように勧められる。後日偶然にも彼女に再会した麦は、彼女の心に潜む夭折した「赤いキリン」の作者原葦ノ介(よしのすけ)の存在に気付く。今度は偶然ではなく彼女を探し当てデートをした二人は、恋人達の森として有名な場所で接吻を交わす。家に帰ると麦の父記(しるす)が直本賞を受賞していた。


Part7「星夜」

 麦は何度も星子と逢い引きを重ねながら、やよいへの想いも捨てられず、彼女に本心を伝えることが出来なかった。しかし、いつか星子を追いかける決意もしていた。ある日の逢い引き中、絡んで来た二人組みの不良を相手に喧嘩をした麦は、惨めにも負けてしまった。そして次に星子に会う日の約束をするのを忘れる。後日星子は自殺する。「二番目に好きな麦へ」という遺書を残して。麦は星子の心に潜んでいた原葦ノ介と対峙すべくカッターナイフで自害する。(小田星子と原葦ノ介との物語は別冊「黄色い鳥」に詳しい)


Part8「北への手紙」

 麦の部屋の前で鳴く、飼い猫「涙」を不審に思った父により麦は見つけられ、麦は一命を取り留める。父の「お前が死んだら、冴子(麦の母)を何に見いだせればいい?」という父の言葉に、麦は父の自分に対する愛情を知る。退院した麦は母の古里、北海道浦河町に旅することを決意する。(父は強引に冴子と結婚した為に、冴子の実家とは絶縁状態にあった)麦は孫だから暖かく迎えてくれるだろうと父は言う。星子への想いを抱きながら母の古里にたどり着いた麦を、母の実家の人々は暖かく迎えてくれる。その夜、麦は星子と母への二通の手紙を書く。翌日、従兄弟の曜子に案内された母冴子の十字架の墓の前に積もった雪の中に、二通の手紙を埋める。母の実家を後にした麦は、馬の世話をする老人に出会う。馬を洗はば馬のたましひ冴ゆるまで人戀はば人あやむるこころ(塚本邦雄)


Part9「走れユニコーン」

 老人は元獣医で、今は民宿を営んでいた。老人の所にお世話になっている頃、北海道へと向かった列車の中で一緒になった女子高生達が宿泊にやってくる。その中の一人みちよはやよいに似ていて、麦に気があるようだった。皆とトランプで遊んだ後に、みちよに星子のことを初めて人に話し、束の間の時間を過ごす。やがて近所の牧場から産気付いた馬がいると、子供がやって来る。大人達は皆結婚式でいなかったのだ。麦と老人は馬ぞりで牧場に向かい、雪かきで手に怪我をしていた老人に変わって、出産を助ける。その時に麦は獣医が自分の一生の仕事だと感じる。


Part10「春の熱病」

 古里に戻った麦は意欲に沸いていた。岩崎のいるラグビー部にも入った。しかし、暫くするうちに麦の体に異変が起こる。体が動かしにくい。北海道の老人の民宿の雪かきをする時に古釘を踏んで、破傷風を起こしていたのだった。苦痛の中切開をするのに一種の麻薬を打たれていた麦は、麻薬を欲しがる。しかし岩崎の「助かる見込みは10%だった。それを知って看病していた親父さんのことも考えろ」という言葉に、麦はそれっきり麻薬を欲しがることはなくなる。病室には、やよいが持って来たすずらんだけが咲き残っていた。

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