第一部5巻

Part22「息子よ」

 二次試験先の北海道から地元に戻った麦は、頻繁に幸子に会うようになった。幸子は麦に対して積極的になっていた。ある日、自宅で麦が幸子を抱こうとした時、岩崎が交通事故に遭ったという連絡が入る。そのせいで、麦は幸子とのことで愛情以上に欲望が心を占めていたことに気付く。岩崎の怪我は全治一日の軽症だった。その帰り、幸子に何か声をかけてあげたい麦だったが、何を言っても言い訳のような気がしていた。ある日珍しく父記(しるす)と外食に出る麦。成長したその麦を記は頼もしく想う。


Part23「春はゆく」

 幸子の態度はさらに積極的になっていた。以前のけなげな幸子のほうがいいと想うのは自分の我がままだろうかと、麦は自問する。入試に合格した雪と一緒に歩いていた麦は、里見先輩と幸子が一緒に歩いているのに出会う。その時初めて麦は幸子が里見先輩の妹だと知る。麦を巡る複雑な出会いに、四人は喫茶店でお茶を飲むことにする。雪と一緒にいたせいで、幸子の機嫌は悪かった。雪は家庭教師の教え子だという話題を選んでも。後日麦と会った幸子は麦の受賞小説「春の熱病」を見つけたと言う。そして、その中のYというのがやよいではないかと麦を問いつめる。麦は触れられたくない想い出を知られるようで、幸子を怒った。後に幸子から電話があり、麦に謝る。麦は彼女が嫌だと思ったのは全て自分のせいではないかと思う。麦の学校、北斗高校で卒業式がある。北斗高校では卒業式のイベントとして校庭で誰とでも握手をする催しがある。その中に麦に握手を求めるやよいがいた。その後のラグビー部の追い出しコンパでは、先輩に何をさせてもいい、という恒例の催しがあり、麦達は女装して踊らされる。それぞれの彼女達も集まった追い出しコンパは和やかにふけていった。


Part24「TeaRoom橄欖(オリーブ)にて」

 麦はお茶の水の予備校に通うようになる。予備校の授業は午前中に終わり、午後は古本屋をぶらついたり、喫茶店で時間をつぶす。ある日喫茶店「TeaRoom橄欖」で読書をしていると、麦の姿をスケッチする青木一郎に出会う。それがきっかけで、麦は美大予備校に通う一郎たち四人のグループと交遊を深める。麦はその中の一人の女性から「The Cerulean Blue(ザ・セルリアン・ブルー:鮮やかな青の意。彼女は本当の海、と言った)」と呼ばれる。麦はそのセルリアン・ブルーの画材を買い求めた。一方で、麦は依然として幸子とも付き合っていた。ある日麦が言った些細な言葉を幸子は皮肉と受け止める。邦雄は海で出会った少女牧子と既に結婚が決まっていて、麦に結婚式の招待状が届く。


Part25「アトム印のトマトケチャップ」

 青木一郎は予備校の近くのマンションに住居を構えていた。一郎たちのグループがたむろする中訪れた麦は、一郎の居候兼用心棒と紹介された、佐々木和彦に出会う。和彦はプロボクサー志望の青年だった。邦雄の結婚式の前日、麦の家で前祝いをした。翌日の結婚式で、牧子は妊娠してることが皆に知らされる。麦は結婚とは当人を中心に愛の糸を繋げることではないかと思う。岩崎は、式に出席していた瑞江を気を利かして麦から遠ざけ、麦は式場の外で待つ幸子の元に向かった。夕暮れの街に、幸子のポニーテールが懐かしく揺れた。(アトムは邦雄の、トマトは牧子の愛称)


Part26「三回戦ボーイ」

 一郎のマンションを訪れた麦。しかし一郎たちは不在で、一郎の従姉妹の関本鮎子に出会う。麦は鮎子に芙蓉のイメージを抱く。遠くから見ると清楚で、近くに寄ると花弁にまで海の香りが漂う芙蓉。麦は海の匂いを嗅いでみたい、近寄ってみたいと感じた。次の日、佐々木のジムを訪れた麦は、体がなまるからと言ってジムに入会する。麦は佐々木のスパーリングのパートナーを頼まれ、佐々木に打ちのめされるが、自分が無くしていた感覚はこれだと感じる。ある日家に帰った麦は、母と同じ名前の冴子という女性が、父の後妻にと、嫌がる父へ家政婦として送られているのに出会う。麦は、父も一人で淋しいから後妻になってもいいと感じる。佐々木の四回戦の試合の日になった。(ボクシングの試合は四回戦からで、三回戦ボーイと言うのは、実力のない者に言われる言葉)最初圧倒的に佐々木に不利な試合展開になるが、セコンドの麦の「三回戦ボーイのままで終わりたいのか!?」という言葉に奮起して、佐々木は勝利する。勝利を祝って、アトリエの仲間や鮎子たちは、夜の街を飲み歩く。最後に鮎子のマンションにたどり着いた時は皆めろめろだった。しかし鮎子は鼻歌など歌いおつまみを作り始めた。麦はその鮎子に、自分にもある左手首の傷跡を発見して何故か涙を流す。

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