第一部6巻
Part27「旅の宿」
浪人の麦と岩崎、梅室の三人は、それぞれの彼女を連れて、旅行に出る。麦は幸子を連れて来る。幸子の両親には、女の子だけで、と言ってあるようだった。目的地に着いた麦は、後は三人別行動で、という岩崎の言葉に困惑する。旅行の目的地など詳しいことは初めに言っていない岩崎の、節子と二人きりの宿に泊まろうという魂胆だった。仕方なく幸子と二人きりの夜を迎えるが、宿は何処も一杯で、二部屋をとることは出来なかった。仕方なく二人で一部屋に泊まった二人は、お酒を飲み合い楽しい時間を過ごすが、麦は添い寝する幸子に何もする勇気がないのだった。
Part28「妹」
麦の父記(しるす)の元に家政婦として送り込まれた沢田冴子の連れ子の風子が麦の家にやって来る。ある日岩崎に会った麦は彼から、幸子が別の男と付き合っている、と聞かされる。岩崎は幸子の横っ面の一つでも引っ叩いておけと言うが、麦は彼女が自分以外にボーイフレンドがいても自由だ、いつも抱きしめていなければ信じられないならそれは愛ではない、と反論する。後に幸子に会った麦は、浪人という引け目から幸子に何も言ってやれなかった。風子は麦や記になつき、記は娘のように、麦は妹のように感じる。
Part29「すみれすみれ」
麦は幸子に会うが、何かの心の変化を感じていた。そんな時、麦に幸子から別れの手紙が届く。岩崎は、幸子は麦を好きになっていることが苦しくなったのだと指摘した。意を決して麦は幸子に会った。幸子は以前より明るくなっていた。それは新しいボーイフレンドのせいだと感じた。麦は完敗だと思った。麦は自分の背負っている悲しみが、星子のせいか、母のせいかと自問する。麦は父にこんな短歌を書き記す。 鉛色の魚焼く煙・灯入れる燭台母がつくるくらがり 考えを巡らす麦は自分と同じ手首の傷を持った鮎子を思い出す。麦は父に、急に会いたくなった人が出来た、と言い残し鮎子の元へ向かう。鮎子は一郎が描いた麦の絵を買い取っていた。その絵を見た麦は、自分の手首の傷を書き落としている、と告げる。鮎子は、いつか麦が会いに来てくれると思っていた、と言う。そして麦は鮎子を抱いた。
Part30「麦星(バクスター:前編)」
麦は鮎子に、自分の取り上げた馬バクスターと同じ名前の星があると話し、麦(むぎ)の穂先に巡る星々の物語を語る。鮎子の部屋で朝を迎えた麦は、SEXはときめきではなく、欲望を越えた安堵感だと感じる。鮎子は、細胞と細胞が会話する為にSEXがあるのだと言う。再び鮎子の家を訪れ、彼女を抱いた後に、彼女の父が訪問して来る。鮎子は麦のことを、今のボーイフレンドだとさらりと父に話した。麦は鮎子の父の吸っていた煙草の銘柄が彼女の吸っている物と同じであることと、彼女の言動から、その父は鮎子の本当の父ではないことに気付く。記は、風子をこちらの学校に転校させる、つまり家政婦の冴子と結婚する、と麦に告げる。
Part31「麦星(バクスター:後編)」
ある日鮎子と会った麦は、どこかで見つけた麦の書いた「春の熱病」を鮎子が読むのを聞いていた。「春の熱病」について語る鮎子は、永遠に閉ざされた愛を語っているのだと感じた。その帰り、麦はもうすぐグッドバイだと告げられる。鮎子はガウディを見たくて2年ほどスペインを訪れるらしい。また後日会った鮎子は、父の頼みで見合いをし、スペインから帰ったら結婚すると言う。しかし、麦に会いたくなったらこっそり会うとも言った。鮎子が旅立つ日、麦は成田空港まで見送りに行き、彼女と口づけをかわす。空虚な心を抱えて帰宅した麦に、北海道の桂英太郎から、バクスターが新馬勝ちした、という手紙が届く。
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