第二部1巻
Part1「麦の秋1962」
麦の父記(しるす)は何かをなくし何かをさがしあてる北海道の旅で冴子に出会うが、彼女の両親に反対され、冴子を連れて実家から逃げるように千葉の八千代台に移り住んだ。1961年、冴子は出産の準備に追われていた。記の家には、友人の杜村や六木が訪れるようになっていた。出産を控えた冴子には胸の病気があり、医者からは危険だと言われていた。1961年9月9日、冴子は男子を出産し、麦と名付けた。しかし冴子の容態は悪化していく。記は金なら幾らでも出す、と医者に言い、医者はあの出産が無理だった、と言った。1962年、冴子は他界した。記はその後も冴子への想いを(小説として)切り売りして暮らしていった。
Part2「銀色の猫(前編)」
麦が小さい頃、父から、銀猫と友達になって何年もするとシッポが九つに分れ人間とお喋りするようになる、という「九尾のきつね」を真似て作った話をしてもらった。毎夜毎夜寝付くまでの創作童話に想像力が限界になった父の窮地の策だったのかも知れないが、幼い麦にとってこの話は鮮烈で、家に出入りする編集者の人に銀猫がいないか尋ね回った。そんな麦に編集者が知り合いから銀猫を譲り受けてもらえるようになる。銀猫はイースターと名付けられた。早く人間の言葉を喋らないかと期待する麦。イースターはガールフレンドを作ったり、近所の猫と喧嘩したりして逞しく育っていった。ある日、麦はイースターのお尻や背中がゴロゴロしているのに気付く。意を決して病院へ連れて行くと、それは毛玉だということで麦と父は安心する。麦は、この毛玉はいつか九つのシッポに別れ、やがて人間の言葉を喋るに違いないと信じていた。
Part3「銀色の猫(後編)」
札幌に住む麦に、仲間が校庭で子猫を拾ったが自分で飼えないので、飼ってくれと頼みに来る。子猫にミルクを与えながら、麦は幼い時に飼っていたイースターを思い出していた・・・ある時友達が、近所に強い猫がいるからイースターと闘わそう、と話をもちかけた。イースターはその猫と闘うことになるが、お尻をケガして帰って来る。父が言うには、お尻を噛まれたのは負けた証拠だそうだ。イースターは近所の猫と喧嘩することが多くなった。そしてある日、イースターは家からそっと出て行った。その時麦はイースターが「アリガト」と言ったのをはっきりと聞いた。イースターはそれっきり帰らなかった。ある夜、麦は父が震えながらイースターを葬っているのを目撃する・・・そんなことを思い出していた麦は、スナック「ロバの耳」で、預かった子猫を引き取ってくれる娘に出会い、子猫を手放す。酔っていた麦は、俺はお前を捨てた、俺を憎んで憎んで忘れるな、と子猫に語る。
Part4「帰省」
札幌にいる麦に、実家から麦の愛猫、涙がいなくなったと連絡が入る。涙は十代後半を一緒に過ごした大切な生き物で、いつか帰って来るだろうと返事をしたものの麦も心配だった。三日後釧路湿原の行軍に参加した麦の帰りをを迎え出たのは、何と涙だった。行軍に参加している間に荷物が届いていたことから、どうやら涙は荷物に付いて来たらしかった。麦は涙を実家に連れ戻しに、夏休み前に帰省する。実家に戻った麦は、やよいと会った。やよいは家人には友達の家に泊まると知らせていた。そして、二人はホテルで一夜を過ごし、麦はやよいを抱いた。
Part5「十字架の馬」
夏休みの帰省の前にバクスターを訪ねた麦は、桂から、こだわりとか思い入れとかは人間の為の獣医学の為には捨てるべきではないかと示唆を受ける。そして千葉に帰省した麦の家は、麦の父、岩崎、梅室、民夫の四人が麻雀をしていて賑やかだった。岩崎たちは麦とやよいに気を遣い、昔民夫と行って初めてやよいと二人きりになった海岸に二人を連れて行く。やよいが母親と軽井沢に旅行に行っている間に、麦はやよいの父親と会うことになる。やよいへの愛を語る麦。愛以前に家のことを説く父親。麦は話にならないと感じる。バクスターのレースがある日、麦は風子の部屋でレースをテレビ観戦する。何故か走ってはいけないと感じる麦。追い込み馬のバクスターは最初から飛ばした。そしてレースに勝ったが、足を骨折してしまう。
←第一部8巻に戻る ↑目次に戻る →第二部2巻に進む