第二部2巻

Part6「草原にて」

 麦は骨折したバクスターを追って函館に来ていた。そこでは、バクスターの殺処分を決めた中央競馬会に対して、桂がバクスターと行方不明になるという事態が起こっていた。麦は桂がバクスターを連れて浦河町に戻っていると信じ、浦河町に向かった。前に、こだわりとか思い入れとかは人間の為の獣医学の為には捨てるべきではないかと示唆した桂だが、バクスターに対しては思い入れが強くなっていた。医者を集めて手術をするつもりだった。そこへ中央競馬会から40名の医師団が派遣される。全国から、膨大なバクスター支援の声に押されてのことだった。麦はここで秋子に出会う。初めて麦がこの町を訪れた時に、バクスターの母馬が産気付いたのを知らせに来た、よしおの姉だった。また、よしおはバクスターに憧れて将来は騎手になるつもりだと言った。麦が待つ中手術は行われ、成功した。術後バクスターは、骨折した前足の負担を和らげる為に、胸の前部と後部をロープと腹帯で支えた。骨折した左前足には不安はなかった。


Part7「北の海鳥」

 麦はバクスターの術後の看病の間、やよいに何度か手紙を書いたが、やよいからの返事はなかった。桂との看病の交代の合間、秋子と街へ出た。千葉の実家に何度か電話をした。バクスターの容態は一進一退を続けた。体の重心移動をしやすくする為に鉄パイプを使って馬小屋を小さくした。バクスターを捨ててやよいの元に戻りたい、そんな感覚もあった。馬小屋で徹夜をする麦に秋子は気を遣うが、麦は今の自分は危険だと突き放した。危険だっていい、よくない、そんな会話が交わされた。麦は、男の性欲は、命を残さずに死ねるか、という不安だ、と思った。そんな中、岩崎と梅室が麦の実家からのことづけ物を持ってやって来た。そして二人は早々に帰って行った。ある時、秋子は自分は麦の親戚に当たることが分った、と言う。秋子は麦と同じ血を共有することを素直に喜んでいるようだった。やがてバクスターに致命的な症状が現れる。前足を後ろ寄りに、後ろ足を前寄りに位置する、蹄葉炎の初期症状の、集合姿勢だった。


Part8「麦星(バクスター)よ永遠に・・・」

 バクスターの容態は悪化の一途をたどっていた。桂の回りの人間は安楽死をさせることを考えていた。しかし、桂は自然死をさせるべきだと譲らなかった。骨折した左前足の蹄球から滲出液があり、蹄葉炎の進行しているバクスターに特殊蹄鉄が与えられた。だが、バクスターは立つことが出来なくなり体を横たえるようになる。関係者の間で、安楽死・自然死が議論され、床ずれを防ぐ為に体を回転させる作業が多くなる。麦ももう奇跡は起こらないと思った。しかし、桂は自然死をさせることを頑として譲らなかった。そしてバクスターは死んでいった。心不全による自然死だった。駅まで麦を送っていく秋子は、一度だけやよいから電話があったと言った。しかし、取り次ぐことが出来なかったのだ。


Part9「星の街にて・・・」

 札幌に戻った麦のマンションには、やよいが訪れていた。聞けば3週間前からここで生活していたと言う。麦は飢えていたようにやよいを抱いた。二人で食事をして、夜の街へとくり出した。春色の看板が並ぶ札幌の夜の街だった。そして「ロバの耳」へも行った。やよいは麦を探してこの店にも来ていたようだった。店には学友たちも来ていたが、麦に気遣って、新聞などで知っているはずのバクスターの話は誰もしなかった。店から帰って、再びやよいを抱いた麦は、腕の中で悶えるやよいに、病魔に苦しむバクスターを連想する。


Part10「棲む・・・」

 やよいは麦と一緒に通学し、麦の帰りを待つ。二人は同棲同様の生活を送っていた。ある日、やよいと抱き合った後、麦に父記(しるす)の友人六木から電話がかかる。記と杜村、それに記に原稿をせがむ編集者も一緒に近くに来ているらしい。麦たちは記たちに会いに行き、六人で食事をする。食後、記は編集者とやよいと共に、編集者からせがまれている原稿を書く為に麦のマンションに残った。麦と六木、杜村の三人は、「ロバの耳」に飲みに行った後、ススキノへとくり出す。二人は麦をネタにソープランドへと行った。もし妻にバレたら、麦にせがまれて行った、と言えばいいという訳だ。麦は入浴料を支払って、待合室で待っているだけだった。原稿を書き上げた記と編集者、やよいは、麦たちが立ち去った後の「ロバの耳」へと出かける。編集者がカラオケで歌う間、記とやよいは語り合う。記の元にやよいの父親が来たこと、父親の娘に対する気持ちは恋情であり愛の一番未熟な形ではないかということ(下図)、麦を中野家にやると言ったが獣医では病院を継げないからダメだと言われたことなどを記は語った。やよいはもう少ししたら麦と別れるつもりだと言った。帰り際、書き上げた原稿が無くなる。原稿「ペンギンの海」は麦の部屋にあり、そこには親の子への嗚咽があった。
 麦の父は、やよいに愛の形を、例えば、
 愛界ー負愛門
   ー正愛門ー地球愛網ー
            ー人類愛目ー自然愛科
                 ーときめき愛科ー恋愛属ー恋種
と系統づけて語った。

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